第3話 彼氏には見せられない唇 ― 黒川への初奉仕
「じゃあ、次は俺の番だね」
黒川が静かに立ち上がる。上着を外し、シャツのボタンを一つずつ外していく仕草はゆっくりで、余裕そのものだった。
布が落ちていくたびに、鍛えられた肉体が露わになる。肩幅の広さ、分厚い胸板、浮き出る腹筋のライン。スーツの下にこんな身体が隠されていたのかと、思わず息を呑んだ。
明るい照明の下、日焼けした肌が艶やかに光る。私の視線は勝手にそこに吸い寄せられ、逃げられなかった。
そして――黒川は迷いもなくパンツに手をかけ、ゆっくりと下ろした。
視界に飛び込んできたものに、思わず全身が固まる。
「……っ!」
そこには、黒川の昂ぶった男性器があらわになっていた。
初めて見るわけではない。彼氏のを見たことも、触れたこともある。だけど――。
(ちがう……全然ちがう……)
大きさ。太さ。根元から先端にかけて反り立つ角度。
まるで異質なものを見せられたように、呼吸が浅くなる。
理性は「比べちゃいけない」と叫ぶのに、身体は現実を突きつけられていた。
彼氏の穏やかで頼りなげなそれとは、明らかに違う。
目の前にあるのは、荒々しいまでの存在感を放つ、大人の男の証。
喉が渇き、声が出ない。
心臓の音だけが、耳の奥でやけに大きく響いていた。
「……触ってみて」
黒川の声は落ち着いていた。命令ではなく、当然のことのように促す響き。
視線を逸らしたまま、おそるおそる手を伸ばす。指先が触れた瞬間――熱い。想像以上に硬く、太い。
指が回らないほどの存在感に、喉が鳴る。
(こ、こんなものが……私の中に……? そんなの、絶対……)
怖さと同時に、理由の分からない震えが腹の奥で生まれる。
恐る恐る指を滑らせると、表面の脈打つような感触が伝わり、ぞくりと背中に寒気が走る。
「……っ」
軽く根元から竿をなぞり、握るように上下させる。黒川の身体がびくりと跳ねた。
「そうそう……その調子で」
抑えた声に余裕が混じる。褒められているようで、さらに頬が熱くなった。
彼とはまったく違う。大きさも、硬さも、反応も。
比べるつもりはなかったのに、自然と比較してしまう。罪悪感が胸を締め付けるのに、手は止まらなかった。
すると黒川が低く囁いた。
「……今度は舌を使ってごらん」
「え……」
息が詰まる。だが、逃げ道はなかった。
ゆっくりと顔を近づけ、恐る恐る舌先を伸ばす。
ぬるりとした塩気が舌に広がる。亀頭の先を舐めた瞬間、黒川の身体が再び大きく震えた。
「ん……そう……上手いよ」
言葉に背中を押され、今度は竿の部分を舐める。舌を這わせると、熱が口の中に移ってくるようだった。
羞恥と背徳に、胸が焼けるように熱かった。
(……ここで、一度出してしまえば)
黒川のものを見つめながら、美咲は必死にそう考えていた。
男はたいてい一度射精すると力が抜けて、二回目まではいかない。
彼氏の翔太もそうだった。男はみんなそういうものなんだと納得していた。
だから――ここで出させてしまえば。
挿入までいかずに終わるかもしれない。
自分の身体を貫かれるよりは、ずっと楽に済む。
その一心で、慣れない口と手を積極的に使った。
「ん……っ、じゅる……ちゅっ……」
唇で先端を包み、舌を這わせて、竿を根元まで舐め上げる。片手で上下にしごきながら、必死に黒川を快感へ追い込む。
(わたし……凄くエッチなことしてる……っ)
羞恥と背徳が入り混じる。けれど舌を絡めるたび、黒川の吐息が荒くなり、熱い声が落ちてくる。
「……すごいな、美咲さん……こんなに尽くしてくれるなんて……」
「うぅ……っ」
褒められるたびに心臓が乱れ、舌の動きがさらに深くなる。
部屋の空気はいやらしい水音で満ちていった。
「ちゅっ、じゅぽっ、じゅるるっ……っ」
自分でも信じられないほどに必死で奉仕している。
黒川はそんな美咲の姿に感動しているとも知らず、彼女は「これで終わる」と信じて手を速めた。
「……っ、もう……出る……!」
低い唸り声。次の瞬間、黒川の身体が大きく震えた。
「きゃっ……!」
思ったより激しい勢いで迸る精が、顔や胸にかかる。熱さと量に驚いて目を閉じるしかなかった。
乱れた呼吸の中で、確かに「いかせた」ことに安堵する。
(……これで、少しは収まるはず……)
けれど、その思惑はすぐに打ち砕かれた。
黒川は荒い息を整えると、ゆっくりと視線を落とした。
そこには――萎えるどころか、さらに硬く、さっきよりも力強く反り上がった肉棒があった。
「……っ、うそ……」
信じられない光景に美咲の表情が凍る。
いくらなんでも、ここまで……? 翔太とは比べものにならない。
動揺を隠そうとしても、頬の赤みと震えはごまかせなかった。
黒川はそんな彼女の姿を見て、愉悦を浮かべる。
「まだこれからだよ、美咲さん」
その言葉が、逃げ道を完全に塞いだ。
黒川が、穏やかな笑みのまま言った。
「嬉しいな。……今度は僕が美咲ちゃんを満足させてあげる」
その言葉のあと、抵抗する間もなくベッドに押し倒される。大きな手が膝裏に回り、脚を開かされる。
「ちょ、ちょっと……!」
思わず声が上ずる。明るい照明の下で、秘めた部分を丸出しにされる羞恥に、顔から火が出そうだった。
「クンニは得意なんだ。僕に舐められていかなかった女性はいないよ」
冗談のように響く声なのに、そこには確かな自信が滲んでいた。
「ま、まって……っ、そんなの……」
小さな抵抗を口にする。だが黒川はまるで意に介さず、両足をさらに押し広げる。股間に顔を近づけ、低く囁いた。
「……きれいだよ。あまりしてないのかな」
喉が詰まり、返事ができない。視線を合わせることもできず、私は顔を横に背けた。
「……よく濡れているね」
感想のように淡々と告げられ、心臓が喉までせり上がる。
「い、いや……っ、そんな……」
か細い否定の声。それは逆に、黒川の嗜虐心を煽るだけだった。私が気づかぬうちに。
そして――。
ひやりとした吐息のあと、舌先がそっと秘部に触れた。
じゅ……る、ちゅ、ちゅ……ぅ、ぬるん、と湿った音が薄く部屋に溶ける。
「んっ……!」
思わず小さな声が漏れる。腰がびくりと浮く。
とうとう、舐められてしまった。
けれど、思ったよりも荒々しくはない。優しく、舌先でなぞるようにして、焦らすように動く。
ぴちゃっと淫らな水音が響き、自然と声が漏れる。
「ん……っ、あ……」
柔らかな感触に呼吸が乱れる。
黒川は私の反応を確かめるように、ゆっくり、じっくりと舌で花弁を撫でていった。