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第4話:快楽の底で ― 舌に溶かされる女の悦び

じゅ……る、ちゅ、ちゅ……ぅ、ぬるん、と湿った音が薄く部屋に溶ける。

(ただ舐められているだけ――早く終わってほしい。ここをやり過ごせば、きっと……)

 頭ではそう割り切っていた。けれど、その理屈は黒川の舌が触れた瞬間に音を立てて崩れていく。
 分厚く、長い。温度を帯びた生き物みたいにしなやかで、迷いがない。たった舌先の一押しで、体の奥が反射で跳ねた。意思より先に、筋肉が、呼吸が、勝手に反応してしまう。

黒川のクンニは本当に巧みで女性を悦ばせることにかけては一流だった。
舌先で輪郭を細い円でなぞり、角で引っかけてから、面に変えてゆっくり押し広げる。
吸いながら裏から押し上げ、微細なバイブのように震わせて、敏感な粒を舌の上で転がす。

舐め方が多彩で美咲のどこが感じるのか、あるいは敢えて触れず焦らして昂らせたり。

 白いシーリングライトが均一に落ち、空調が微かに唸っている。ベッドの上、膝は黒川の腕に支えられて左右に開かれ、太腿の内側へひやりとした風がまとわりつく。羞恥で皮膚は熱いのに、露わになった部分だけ冷え、そこへ男の吐息が触れて、細かな鳥肌が走った。

「……きれいだよ。まだ“こういうの”は、あまりしてないんだね」

 覗き込む声は落ち着いていて、観察の色を帯びている。返事ができず、視線だけを逸らし、指先を握りしめる。否定の言葉を探すほどに喉は渇いた。

「よく濡れているね」

「い、いや……っ、それは……」

 わずかな抵抗。けれど、自分でも頼りないと分かっている。太腿の内側に、ぬるりとした筋が細く伸びていく――事実は動かない。体は嘘をつけない。

 黒川は膝裏を軽く持ち上げ、角度をほんの少し変える。肩が沈み、顔がさらに近づいた。
(やはりまだ一度もまともにイッたことはないな……よし、この身体にしっかりと快楽を刻み込んでやる)
 吐息が触れる。次の瞬間――舌先が、そっと花弁の縁に。

「っ……ん」

 ほんの一点、柔らかな接触。掠めるだけの、ごく細い軌跡。
 軟らかな舌は私の形に合わせて丸く湾曲し、外郭をなぞる。押し込まない。穿たない。ただ“ある形”を確認するみたいに、ふくらみの境い目を回り、角を曲がるたびに微かな震えを置いていく。

 くすぐったい――だけど、くすぐったいだけで終わらない。
 撫でられた場所から遅れて、奥がじわじわ熱を帯び、神経の先が一本ずつ起き上がる。

「……く、くっ……」

 歯を噛み、唇で声を塞ぐ。だが喉の奥から細い喘ぎが漏れた。自分でも驚くほど、声は甘く、弱い。

(んっ……はぁ……っ、だめ……こんなの……奥の奥まで熱が広がって……もう、止められない……舌で……私、支配される……)

 舌の動きが変わる。花の先端――いちばん敏感だと自分でも知っている小さな突起の手前で、舌先が細かく震えた。触れそうで触れないぎりぎりの距離を往復し、熱を溜め、焦らし、また近づく。

 触れない距離に耐えきれず、腰が勝手に前へ出る。すぐに掌が下腹を押さえて制した。
 支配される感覚。なのに、その圧は安心にも似ていて、余計に熱がこもる。

「……大丈夫。落ち着いて」

 命令ではない、支える音色。
 そして、舌先が――ふっと、敏感な頂点に触れた。

「……あっ」

 火花。頭頂で白く弾ける。引っかけて、離して、また角度を変えて、ちょん、と突く。
 乱暴ではない。なのに、体は正直に跳ねた。小刻みに震える先端を、今度は舌の上でゆらゆらと転がす。乗せられ、扱われ、反応に合わせてわずかに強弱がつく。

「……アソコ……舐められてっ……あぁ……だ、だめ……っ」

 言葉が切れ、息が切れ、額に汗が滲む。空調の風が汗を冷やすたび、肌がぞわりと逆立った。

 黒川は私の一つひとつを逃さない。呼吸の乱れ、腿の震え、握る指の強さ。
 舌は段階を上げる。縁を円で描いたあと、中心へ細い道をつくる。浅く差し入れ、すぐ引き、また浅く。入口にだけキスを繰り返されているみたいで、そこだけが熱で膨らむ。
(いいぞ、その顔だ……もう少しで完全に堕ちる。泣きながら悦ぶ女ほど、何度でも躾けがいがある)

(やめ――)

 心では制止しているのに、体は別の意思で動く。
 腰が小さく浮き、彼の口もとへ近づく。片腕が臀を支え、逃がさない角度に固定する。

 そこで、舌の“質量”が変わった。
 薄く撫でていた先が、ふいに厚みを増し、ぐっと押してくる。
 とろりと溜まっていたものが舌の圧に沿って動き、奥の壁にぴたりと当たった。

「……ひっ――」

 喉が勝手に鳴る。
 舌が奥へ侵入する。
 きゅう、とすぼまる筋肉を舌の腹で押し開き、入っては引き、押しては吸う。吸って、舐め上げ、角度を変え、また吸う。

 最初は恥ずかしかった小さな水音が、回数を重ねるほど厚みを増やし、ベッドの空気が粘る。

「……っ、ん、んんっ……や、やだ……っ」

 抵抗しているがその力強さもなくなってきている。
 黒川の息だけがわずかに深くなる。
(――経験が浅い。からだは成熟してるのに、本当の“女の悦び”をまだ知らない。
 もったいないことだ。快楽を教え込んでしまえば、金のためじゃなく、俺を欲しがる女になる。……その瞬間が一番美味い)
「まだ、ここからだから」

 告げると、舌はふたたび外側へ。濡れた花弁を上下に、ゆっくり撫で上げる。
 一筆書きのように、根元から先端へ。途中でわずかに止め、期待を溜め、また上へ。
 唾液が糸を引き、愛液と混じって艶をつくる。その艶の上を、舌が痕跡を残して進む。

 そして――吸う。
 先端を唇でやさしく挟み、舌で裏から押し上げながら、静かに、しかし逃がさない圧で吸引する。
 吸い上げられるたび、細い線が背骨を駆け上がり、てっぺんではじける。

「……っ、あ、あぁ……っ、だめ……っ、変になる……っ」

 吸われた瞬間、腰が勝手に跳ねる。下腹と恥骨の境い目に掌が置かれて跳ねを受け止め、さらに舌の角度が深くなる。反応を学習して、最短距離で重ねてくる――そんな巧さ。

 噛んだ下唇にじわりと痛み。けれど、それさえ下の熱を強調する添え物に変わる。

 気持ちよさは一本の線ではない。浅いところでチリチリ燃え、奥で鈍い火がくすぶり、表面で水がはじけるみたいに散る。
 黒川の舌は、その散り方に合わせて配分を変える。
 外→中→外。線→点→面。
 触れ方、角度、舌の硬さを次々と換え、吸いと撫でを交互に差し込む。焦らし、溜め、ほどき、また結ぶ。

「んっ、んぅ……っ、や、やだ……っ、いや……」

 否定はもう意味を持たない。耳の後ろまで熱く、胸の先は薄い空気に擦れて痛いほど敏感。指先はシーツを握り、足首は力なく崩れ、内腿に汗が細い線を作る。
(怖いのに……嫌なのに……舌が触れるたび……もっと欲しいって……無意識に腰が……近づいてる……もう、戻れない……)

 舌が、また奥へ――今度は深く。
 じゅる、と吸って即座に引き抜き、入口をリング状になぞり、先端を軽く吸い、また解放する。
 加減はやさしい。なのに、逃がしてくれない。
 逃げ道を塞ぐのは彼の両手ではなく、私自身の反応だと、どこかで分かってしまう。

「……だ、め……だめ……っ、そんな――」

 語尾がほどけ、声が震える。
 黒川の指が、いちばん震える下腹のポイントを円で撫でる。舌と指が、外と内で合図を送り合うみたいにリズムを合わせた。
 その瞬間、体内でスイッチが切り替わる音がした。

「――っ!」

 腰が勝手に突き上がり、口もとへ身を差し出してしまう。
 逃さない。舌を縦に寝かせ、敏感な先端の左右を最小幅で素早く往復、細かく震わせる。
 すぐに強くしない。緩急をつけてじっくりと嬲られる。

 視界の端が白く瞬く。
 足先が痙攣し、指がシーツを爪で裂くみたいに握り、喉から細い悲鳴がこぼれる。
 “早く終わってほしい”の「早く」の意味が、少しずつ別のものに変わっていく。終わらせたいのに、終わらせたくない。
 駄々っ子みたいな矛盾を抱えたまま、私は舌先の支配の中でほどけていく。

 黒川の内心は静かに温度を上げていた。
 ここまで来れば――もう戻れない。
 ただ気持ちよくするのではなく、この体に「欲望の回路」を刻む。
 触れられれば疼き、思い出すだけで濡れ、距離を測るより先に脚が開くように。懇願させるための、準備。
 そのための、舌。

「我慢しなくていいんだよ。女の子は、気持ちよくなって当然なんだから」

腹の奥がきゅっと甘く締まる。次のストロークは、さらに深く優しく、そして容赦がない。

「――っあ、あぁ……っ、だ、だめ……だめぇ……っ」

 空調の音が遠のき、ベッドの軋みと水の音と舌の湿った擦過音だけが大きくなる。世界が、そこだけに収束していく。

 舌がもう一度、奥へ。
 愛液を吸い取り、すぐ解放し、縁を円く撫で、先端を軽く吸い、また解放――反復が体内で一つの波形を描き始めた。寄せては返し、返す前に、もう一つ重ねる。
 波が重なり、重なり、重なり――。

「……っ、ん、んんっ……!」

 自然に、腰がびくっと跳ねた。抑えようとした力が抜け、足指が開き、視界が滲む。
 終わらせたい、と願っていたはずなのに――いまは、終わるのが怖い。
 この先を知ってしまったら、もう戻れない気がして。

 黒川は、その恐れごと舌で攫っていく。やさしく、正確に、逃げ道のない角度で。
「……恥ずかしい? 大丈夫だよ、俺しか見てない。安心して、イッてごらん」

 ――頭の中が、真っ白になる。

 舌が触れているのは、たった一点。そこから全身へ無数の火花がはじけて広がる。
 まだ会って間もない男に、女としての悦びを知らされている――その現実が、羞恥と快感をないまぜにして心をかき乱した。

「や……だめ……っ、こんな……!」

 必死に腰を浮かせて逃れようとする。けれど、両脚は大きな手にがっちり掴まれ、太腿裏を押さえ込まれる。逃げようとするたび、逆に秘部が口もとへ押しつけられ、巧みな舌から逃げ場を奪われた。
「我慢しようとしなくていい……ほら、もう全部任せちゃえ」

「んっ……あぁ……っ、や、やだ……だめっ……!」

 声は自分のものと思えないほど甘く震える。
 舌が花弁をなぞり、敏感な突起を捉え、吸い上げ、震わせる。波が畳みかけるように押し寄せ、奥で何かが膨らんでいく。

(だめ……っ、なにか、くる……っ!)

 その瞬間――。

「ひぁっ……あぁあぁぁっ……!」

 秘部の奥から、ぴゅっと勢いよく愛液が溢れた。自分で制御できない強い収縮。腰が勝手にのけ反り、シーツを握りしめ、喉から大きな喘ぎが洩れる。

 ――初めての、絶頂。
 それだけじゃない。生まれて初めての「潮吹き」だった。

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